ピッコロ大魔王が悟空と天津飯の手によって倒されたことで、世界には一時の平和が訪れた。
最もこれからも、ピッコロが復活したりサイヤ人が「クンッ」とやったり フリーザ親子が来たり人造人間に町一つ壊されたりセルに国民を吸収されたり ブウに地球そのものを消されたりといろいろとんでもない事が起きるのだが、それはまた別の話であり、 少なくとも今は、我らが美形の天才ヒーローヤムチャにとっては、世の中は平和そのものであった。
平和になると人々は堕落し、悪に走るといわれる。
我らが美形の天才ヒーローヤムチャもその例外ではなく、彼は復讐を計画していた。
美形の天才ヒーローヤムチャの華麗な瞬発力を支える、美しいおみ足を無残にも骨折させた、あの三つ目野郎……天津飯への復讐計画である。
確かに天津飯は地球を救った英雄だが、だからと言って人の足を折った罪が許されて然るべきではない!
ヤムチャは勢いよく机を叩いた。プーアルがビックリして飛び上がった。
大体あいつは地球を救いはしたが、目の前でむざむざ武天老師とチャオズを殺されて動けなかったヘタレじゃないか!
この俺なら二人を殺させなかった自信がある(すぐにボールを差し出して逃げるから)。つまり力は天津飯の方が上だが、同時にヘタレ度も向こうが上だと言うこと!
この対決、俺に分がある!
ヤムチャはそう考え、復讐の手段を練った。
プーアルは、突然机をぶん殴ったかと思うと頭を抱えて唸りだすヤムチャの様子を、心配そうに見守っていた。ついに頭までお留守になったのか、と。
……とはいえ、力と力の勝負では不利。
なんとかこちらに有利で、かつ相手に不利な状態を作らなければ、差は縮まらないだろう。
そのためには、俺――ヤムチャと、天津飯の差がどれくらいあるのか、正確に突き止めなければならない。
悟空は天津飯に勝った。そして俺と同じぐらいの実力を持つクリリンと、悟空はいい勝負をしたらしい。
ん? 何かおかしくないか?
悟空が天津飯より強くて、悟空とクリリンがいい勝負をして、俺とクリリンがだいたい互角――むしろかめはめ波の威力の差で俺の方が有利なはず――で、天津飯は俺より強い? ……おかしいじゃないか。
ああ、そうだ。たしか最初は悟空は、クリリン相手に本気で戦ってなかったんだったな。
その後本気を出して、一撃で倒せるぐらいにパワーアップ……。パワーアップ?
ヤムチャは思わず立ち上がっていた。
……本気を出した悟空とそうでない悟空、違いはなんだ?
外見……、筋肉とかじゃない。
悟空の外見は同じはずだし、筋肉で強さは決まらない。 俺自身、俺より図体のでかい奴を力で押し倒した事がある。
じゃあ、内面?
ヤムチャは考えに集中するため、部屋の中を歩き回り始めた。
一旦部屋の隅まで行き、また戻る。
そのときさっきまで座っていた椅子の足で足の小指を打ったが、痛みに悶えながらも考え続けた。
プーアルは、やっぱり足元もお留守なヤムチャの様子を心配そうに見守っていた。 病院に連れてった方がいいんじゃないか、と。
……本気を出す、出さないの違いは内面の強さ。精神力か?
いや、そうじゃない。本気を出した悟空は明らかに動きまでよくなっている。 クリリンから聞いた話だ、間違いないはず。
精神力じゃない、とすると……。
――体内の潜在能力を増幅し一気に放つ。武天老師の大技――
――いや、ホントすごかったんスよヤムチャさん。決勝戦の最後に出た気功砲って技なんですけど、天津飯さんの手がぼんやり光ってて――
潜在能力? 「気」功砲?
これだ! ヤムチャはいても立ってもいられなくなり、再び立ち上がった。
意外に思われるかもしれないが、ヤムチャは元々頭がいい。
砂漠育ちで学こそないものの、パンツァー・ファスト、マイティマウス号などの機械を操り、都会にも順応して見せた。
その頭のよさが今、ここに爆裂しようとしている。
もっとも爆裂した後はその反動で、普段よりさらにヘタレるのだが。
……そうだ、気だ! かめはめ波を撃つとき体内に感じるエネルギー、潜在能力の正体! 本気を出すということは、体の中に眠る気を解放してやるということだ。
いわば微弱なかめはめ波で全身をコーティングしているようなもの!
ヤムチャは再び部屋の中を歩き始めた。しかし今度は机の角で足の小指を打ち、もんどりうって倒れる。
……待てよ。この「気」を数値で表す事が出来たらどうなる?
ヤムチャは足の小指をフーフーしながら考えた。
……本気を出すと潜在能力が引き出され、力が上がる。 それは普段より体力の消耗が激しいと言うことだ。
「気」の数値を知る事が出来れば、天津飯が本気を出して「気」の数値が上がったらひたすら防御し、疲れて下がったらそこを突いて攻撃する作戦が取れる。
多少の戦力差はひっくり返してでも勝利する事が出来るはずだ。
やはり、天才。
フ……、フフフ……。ファーハッハッハッハ……!
プーアルは、足を打ち付けた痛みに顔を歪ませつつ小指に息を吹きかけながらそれでも不気味に笑い声を上げているヤムチャの様子を心配そうに見守っていた。 こいつもうダメだ。壊れたな、と。
「……とまあ、そういう原理で「気」の大きさを測る事に成功したわけだ」
「すごいじゃない! あんたにこういうことができるなんて、見直したわ」
「ヤムチャさんは本当によく研究してましたからねぇ」
「いやいや、カメさんやプーアルの助けがあらばこそ、さ。だーはっはっは」
「ヤムチャ様ー、武天老師様の「気」の数値が出ましたよー」
「やれやれ。なかなか複雑な検査じゃったな。どれ、いくつくらいじゃ?」
「1.39ヤムチャ、139センチヤムチャです!」
「おー、新記録ですよ! さすが!」
「ちょ、ちょっと。何よその「ヤムチャ」って」
「「気」を表す単位の名前だ。単位の世界では、発見者の名前を取る命名法は珍しくないだろ?」
「ま、まあ……。そうだけど」
「ちなみに俺の「気」の量を1ヤムチャとして計算している、1ヤムチャは100センチヤムチャだ。武天老師様は139センチヤムチャだから俺の1.4倍ぐらい強い。クリリンは110センチヤムチャぐらいだったな」
「ふ、ふーん。……って、ヤムチャが一番ヤムチャ値が低いんじゃん」
「ま、まあ気にするな!」
「……まあ、確かにこの発見はすごいわね……。よし、このブルマさんが一肌脱いで、「見ただけで相手のヤムチャ値がどれくらいか分かる装置」を作ってあげましょー!」
「いやいや、それには及ばないさ。今のままでも充分実戦に耐えうる精度の測定ができる。よーし、じゃあ俺はこれから天津飯の奴に復讐しに行ってくるから、スカイカー借りるぞ! じゃあな!」
「あ、いや、精度の問題じゃなくてさ……。行っちゃった」
「若いもんは気が早いのう」
「もっとのんびりするべきですよね」
「カメさん、あなたはもうすこしすばやく動いた方が……」
プーアルは、喜び勇んで船に飛び乗り、 キーを回すのももどかしげにスカイカーを飛ばすヤムチャの様子を心配そうに見守っていた。 あの人が調子に乗ると、ロクなことにならないんだよなぁ、と。
「久しぶりだな天津飯! 今日はこの足の怪我のお礼参りにきてやったぜ!」
「し、しーッ。声が大きい。まだランチさんが近くを徘徊……、お礼参り?」
「そうだ、決闘をしにきたってわけさ!」
「決闘か……。そりゃ面白い」
「天さん、僕がランチさんにランチをおごってひきつけておくから、心置きなくやりなよ」
「分かった。10分もあれば終わるからな」
「お前の負けでな、天津飯」
「フフフ……。お前の負けだ天津飯! お前の情報はすべて、この俺にはお見通しだからな!」
「な、何ッ? どういうことだ……?」
「まず、この血圧測定器に右腕を突っ込んでくれ。同時に左脇に体温計を挟め」
「あ、ああ……」
「右腕は動かせないから、左手で握力を測ってくれ。この体重計の上でな。体脂肪率も同時に出てくるからな。えーと、脳波の様子はα波が……」
「……ヤムチャ。相手の健康を気遣うそのスポーツマン精神は素晴らしいと思うが、俺は毎日青汁を飲んでいるから、いたって健康体だ。それにあまり時間がかかるとチャオズが心配なんだ。早く始めよう」
「あ、ま、待て天津飯。まだ瞳孔の収縮具合と肌のメラニン色素の濃度を検査していない! この数値が出なければヤムチャ値は出せな……」
「排球拳、行くわよーッ!」
「来ないでーッ!」
プーアルは、 病院のベッドの上で再び折れた足の痛みに悶えるヤムチャの様子を心配そうに見守っていた。 この人についていくの、やめた方がいいんじゃないだろうか、と。
「逆襲のヤムチャ」何がなにやら分からないまま終わり