エイジ784年5月29日、午前9時23分。
クリリンは天界で、ブウが来るのを待っていた。
気円斬を使える二人、クリリンと18号を護衛する役目が、悟飯からブウへと交代されるのだ。
現在――悟空は夜の警戒を終え、自宅で休んでいる。
悟飯は天界の宮殿で18号とともにいる。
トランクスは下界でヤムチャを捜索中。
ベジータとは連絡がつかないが、おそらくヤムチャを捜しているのだろう。
そしてブウはこちらに向かっている。
クリリンは小さく溜息をついた。
もう、これだけだ。戦士はこれだけしか残っていない。
今のヤムチャの戦闘力について、昨夜悟飯は"ベジータ以上"と推測していた。
クリリンも同感だった。
ピッコロとの戦いで感じたヤムチャの気の大きさは、ベジータを少しだが確かに上回っていた。
ベジータ自身もそれに気付いたのだろう。物も言わず天界を飛び出した後、行方が知れない。
あのベジータ以上の戦士。しかもエネルギー波を吸収し、誰よりも多くの技を操る戦士。
それが今のヤムチャだった。
そのヤムチャに、たったこれだけの人数で対抗しなければならない。
クリリンはもう一度溜息をつくと、宮殿の端へ駆け寄った。ブウの気配を捉えたからだ。 18号も建物から出てくる。
ブウはゆっくりと宮殿に降り立った。
「悟飯、いるか?」
「今宮殿の中で休んでるよ。ちょっと呼んでくる」
18号が建物へと向き直った。
「悪いな、18号。今出て来たばっかだってのに」
「オレ腹減ったぞ。ついでにお菓子持ってこい」
「はいはい。代金はサタンにつけとくよ」
18号がそう言って歩き出した瞬間、彼女は吹き飛ばされていた。
何者か――勿論ヤムチャだが、そのヤムチャの蹴りによって、壁に思い切り叩きつけられたのだった。
クリリンは慌てて18号の元へ駆け寄った。衝撃に気付いて悟飯も起きて来る。
「クリリンさん! 18号さんは?」
「……死んでる」
18号の身体にはすでに脈はなかった。
「肺をやられたんだ。こいつ、基本は人間だったから、臓器を的確に狙われたら永久のエネルギーも意味はない。……ちくしょう。18号ーー!」
クリリンは絶叫した。
悟飯はクリリンがヤムチャに飛び掛らないように、素早く一歩前に出ると言った。
「ついに判断を誤ったようだな。ヤムチャさん、……いや、ヤムチャ。ブウとボク、ここにいる二人は、確実にあなたより強い」
「確かに、……正直に言おう、確かにちょっとヘビーな相手だ。だが、オレは判断を誤ったとは思わない。お前ら二人と戦い、勝たせてもらうぜ」
「さて、さっそく戦わせてもらおうかな」
ヤムチャが亀仙流の構えを取った。
「悟飯、お前寝てたとこだろ。もっと寝てていいぞ。こいつオレより弱い。オレだけで充分」
ブウがゆっくりとヤムチャの前に出た。
「ブウ、油断しちゃダメだ。ヤムチャには――」
「エネルギー波は撃っちゃダメ。手のひらで触られるのもダメ。 オレ、馬鹿じゃないから覚えてる」
「ブウ!」
ヤムチャが呼びかけた。
「やっぱりお前は強敵だ。正攻法で倒すのは無理だろうから、いきなり最高の技で行かせてもらうぜ!」
「最高の技でも無駄だ。オレ、お前より強い」
ブウが細い目を見開いてニヤリと笑った。
「強さには関係ない技なんだ」
ヤムチャはそう言ってブウに笑い返すと、懐からビンを取り出して床に置いた。 ビンには、「大魔王封じ」と書かれていて、「王」の字が上から「人」の字に書き直されている。
「あれは――!」
クリリンが叫んだ。ヤムチャは気を集中させると、
「魔封波だ!」
の掛け声とともに、手のひらから突風のような気を発射した。
しかし突風は正確に相手に向かわず、ブウの右腕を少しひねっただけで止んでしまった。 ヤムチャは荒い息をつきながら、しかし余裕の表情でそれを見ている。
「なんだ、今のは? 全然痛くなかったぞ」
ブウがキョトンとした顔で言った。
「本当に今のはなんだったんですか、クリリンさん。あなたは知っているみたいな口ぶりでしたけど……」
悟飯がクリリンに尋ねた。
「魔封波っていって、命と引き換えに相手を封じ込めちまう大技だ。武天老師様や天津飯はあの技が使えた……。きっとそれで覚えたんだろう」
クリリンが答えた。すでに落ち着きは取り戻している。
「今のが、最高の技なのか?」
ブウがヤムチャに尋ねた。
「ああ。最高の技だけにちょっと難しくてな。失敗しちまった」
ヤムチャが頭を書いてみせる。
「今のは嘘だ。魔封波は当てるだけなら難しくない。当ててから上手くビンに封印するまでが難しいって聞いてる。……ヤムチャさんは、わざと不完全な魔封波を繰り出したんだ。何故だろう? まともに魔封波を使うと死んでしまうからに決まってる。じゃあもともと当てる気がなかったってことになるけど、何でわざわざそんなことを……」
クリリンが考え込んでいる間に、ブウが口を開いた。
「難しい? そうは見えなかった。お前が下手なだけだ。 オレはもう覚えた。オレがテホンみせてやる……」
ブウが両手に気を集中し始めた。
「し、しまった! それが狙いか! やめろ、ブウ! 技を止めるんだ!」
クリリンが叫んだ時には、すでにブウは魔封波を放っていた。
気の突風がヤムチャを襲うが、ヤムチャはニヤっと笑ったままその場を動こうとしない。
「魔封波返し!」
ヤムチャがそう叫び、両腕を前にかざすと、魔封波の突風は向きを反転してブウを捕らえた。 ヤムチャは操気弾の要領で、落ち着いて魔封波を誘導し、大魔人封じのビンに命中させた。
「や、やられた……!」
クリリンがくやしそうな声をあげた。
「な、なんですか、今のは? ブウがあのビンの中に……」
「魔封波返し。ピッコロがワルだったころ、魔封波対策として編み出した技だ。 ヤムチャさんは最初に見せ技として不完全な魔封波を放ち、ブウに技をコピーさせた。 魔人を倒すには魔封波はうってつけだけど、自分で使ったら死んでしまう。 それでブウの能力を上手く利用した……」
ヤムチャはゆっくりと大魔人封じのビンを拾い上げた。
「ブウは技のコピー能力と相手を吸収する能力を持っていた。オレと同じように……。 だが、無知だったから技の性質に気付かずに、あっけなく罠にはまってしまった。 戦いに関する知識や経験の差は、時にパワーよりも重要になるってことだ」
ヤムチャはビンのふたをしめた。
「なるほど……。だが、まだボクがいる。同じ手は二度は使えないぞ。ヤムチャ……かかって来い」
悟飯がヤムチャの正面に立った。
ベジータを圧倒したブウがさらにパワーアップした、 そして超サイヤ人3になれる悟空が「かなわない」と評した、 あの邪悪な時のブウを、軽く叩きのめしてみせる最強の戦士。 それが、孫悟飯だった。
クリリンの観察でも、悟飯とヤムチャの間の戦闘力差はすぐにわかった。 ヤムチャを15億程度とするなら、その3倍以上。 悟飯は50億の戦闘力を有していた。
間違いなく勝てる。負ける要素はほとんどない。
それなのに何故か、クリリンはまだ不安だった。
「悟飯……。早めに勝負をつけた方がいい」
クリリンの言葉に、悟飯はゆっくりとうなずいた。
「わかっていますよ……、クリリンさん」
しかしその時、ヤムチャが動いた。高速で悟飯に飛び掛り、手刀を浴びせようとする。
「新狼牙風風拳!」
手刀は悟飯の首筋に入った。
続く蹴りも、打撃も、両手での掌打も、悟飯はすべて避けようともせず受け止めた。 そしてニヤリと笑って見せた。
「今度はこっちの番だ……」
悟飯はゆっくりと飛び上がった。
そしてすぐに、目にもとまらない速さの回し蹴りが、ヤムチャのみぞおちを直撃した。
ヤムチャは猛烈な勢いで吹っ飛ばされ、 神殿の床を転がると早くも重傷といった表情で起き上がった。
「つ、強い、な……」
「あなたよりもかなり、ね。でも早めに勝負をつけさせてもらう。遊んで痛い目をみるのは、もうたくさんだ」
悟飯がヤムチャに向かって歩き出した。 ヤムチャはしかし、ニヤリと笑って見せた。
「やはりお前には勝てないか……。まともに戦っては、な」
「まとも? 勘違いしているようだな。すべての攻撃はボクには通じない。つまりどうあがいてもあなたはボクには勝てない……」
「すぐ油断するところは変わっていないな、悟飯。戦いに勝利する方法は、攻撃だけじゃない……」
ヤムチャは両手に気を集中した。そして指先を合わせると、その手がぼんやりと光を帯び始めた。
「気功砲だ!」
クリリンが言った。
「"新"気功砲だぜ」
ヤムチャが訂正する。
「天津飯さんの最高の技、そしておそらく、あなたの最高の技でもある……。だが、ボクにはダメージを与えられない」
悟飯が自信たっぷりに言い放った。しかしヤムチャはそれに輪をかけて自信たっぷりに、
「ダメージを与えなくても、勝つことはできるぜ」
といった。そして一瞬気功砲の構えを解くと、手を額にかざした。
「太陽拳!」
閃光に、悟飯とクリリンの目はくらんだ。しかし悟飯は冷静だった。
「隠れても同じことだ! 撃つなら撃ってこい! ヤムチャ!」
一瞬の後、悟飯の身体を強烈な衝撃が襲った。身体が上に流される。つまりヤムチャは――
「下か!」
舞空術で体勢を整え、悟飯は下を見た。
神殿に穴があいていて――悟天がヤムチャに吹っ飛ばされた時の穴だと、 前にクリリンから聞いた――その穴の向こうに、ヤムチャの顔が見えた。
「下からの気功砲とは意外だったが、だがそれだけだ! 見ての通り、ボクにはまったくダメージはないぞ!」
「だからダメージを与えるとは、言ってないだろ」
ヤムチャはそういうと、もう一発新気功砲を放った。 悟飯の身体が上に流される。ダメージはない。
「何が、狙いなんだ……?」
悟飯のつぶやきに、ヤムチャが答えた。
「お前は新気功砲を喰らった直後、ダメージはないにせよ少しの間だけ動けずにいるな。 ……オレはそいつを予想していた。 この技はかつて、天津飯がセルの動きを止めるのに使った技だ。 さすがに天津飯とセルの差よりは、今のオレとお前の差の方が小さいだろうから、新気功砲でお前の動きを止められることには自信があった」
「動きを止められても、勝つことにはならないだろう? 気功砲は気をかなり消耗する。いつかあなたの気は底をつく。それで、終わりだ」
「まあまあ、話は最後まで聞けよ」
ヤムチャはさらに新気功砲を放った。 再び悟飯の身体が上に流される。やはりダメージはない。
「セルは新気功砲を喰らった直後、地面にあいたでかい穴の底まで転落させられていた。登ろうとしては落ち、登ろうとしては落ちを繰り返して、上手く時間を稼がれていた。……あ、オレはその時こっそり様子を見てたんだ。怖くて戦闘には参加できなかったけどな」
再び新気功砲が放たれた。
「さっきも言ったように、当時の天津飯とセルの差よりは、今のオレとお前の差の方が小さい。つまりセルに起こったことは、悟飯、お前にも起こると予想できる。それもセルよりも大きな効果でな。
えーと、結論を言おうか。
悟飯、お前は新気功砲を喰らうたびに、少しずつ……、だが確実に、上方に飛ばされている。 そしてサイヤ人は、――宇宙空間では生存できない」
悟飯は気付いた。気を最大限にまで解放し、その場を離れようと試みる。
「遅い! 新気功砲の特性の一つは、この速射性にある!」
ヤムチャの新気功砲が、悟飯を捉えた。 身体が上に流される。抵抗できない。思っていたより強い力だ。
「宇宙まで押し飛ばしてやるぞ! 悟飯!」
新気功砲のペースが上がった。
クリリンが慌てて神殿の裏に回り、ヤムチャに向かってとび蹴りを放つが、 ヤムチャに片手ではたかれ、神殿の上にまで吹っ飛ばされてしまう。
そしてクリリンが何とか起き上がったとき、悟飯の気が消えた。
究極の戦士孫悟飯は、新気功砲によって大気圏外に追放されたのだ。
「天界で戦えたことは幸いだった……。ここは地上よりずっと宇宙に近いからな。下界から宇宙にまで悟飯を飛ばすには、オレの気は足りなかったかも知れん」
ヤムチャは神殿の上まで昇ってくると、ゆっくり息をついた。
「さて、クリリン……。お前はどうする?」
「ヤムチャさん……」
クリリンが静かに言った。
「おう。どうするクリリン。 オレは見ての通り疲れきっているし、お前とオレとは兄弟弟子だ。 できれば戦いたくはないんだが……」
「なんでこんなよわっちいオレなんかが、今度のこの騒ぎの中で今まで生きてこられたと思う?」
クリリンの言葉に、ヤムチャはきょとんとした表情になった。
「どういうことだ?」
「オレが今まで生きてこられたのは、仲間が――悟天とか、今の悟飯とブウとか――が、 オレのことを死なないように気をつけてきてくれてたからなんだ。 気円斬がヤムチャさんに奪われてしまったら、戦況が左右されかねないから、って」
ヤムチャは、黙ってクリリンの話を聞いていた。
「ピッコロが言っていた。気円斬は上手く使えば、悟空だろうと一撃で倒せてしまう技だって。だからあんたに渡ると危険すぎるって。でも、オレは気付いたんだ。それってつまり――」
クリリンは、右手に気を集中した。
「気円斬を上手く使えば、オレでもあんたを――」
右手を上にかざし、気を薄い円盤状にして回転させる。
「倒せるって、ことだッ!」
クリリンの放った気円斬は、まっすぐヤムチャの首筋に向かって飛んでいた。
ヤムチャは疲れていたせいか、ほとんど棒立ちの状態だ。避けられそうにはない。
そして気円斬は、絶対に防御する事は出来ない。
勝ったとクリリンが確信した瞬間、ヤムチャは残念そうに首を振った。
「クリリン、残念だ。戦いのレベルは、もうお前よりはるか上に来てしまっている」
ヤムチャはクリリンの正面へ向き直り、 気円斬の円盤を、シンバルでも叩くように両手で上下から挟み込んだ。
回転の摩擦で手から煙が立ち昇るが、ヤムチャは力を緩めなかった。 そして気円斬は、ヤムチャの両手の突起に吸収され、小さくしぼんで消えてしまった。
「クリリン、残念だ。お前を殺さなければならないなんて」
ヤムチャの姿が、クリリンの視界から消えた。 そして一瞬の後、後ろからのヤムチャの手刀でクリリンは気を失った。
エイジ784年5月29日、午前10時12分。
トランクスはパンとともに、南の都近辺の岩場を探し回っていた。 パンが自分もヤムチャを捜しに行くといって聞かなかったので、仕方なくつれてきたのだ。
「こっちにはいなかったよー!」
パンが一際高い岩の上から手を振った。トランクスは力なく手を振り返す。
どう伝えるべきだろう。悟飯が死んだことを。
50分ほど前に、突然天界の方角から戦いの気を感じた。
そしてブウ、悟飯、クリリンの気が順番に消えていった。
パンは気を感じる力を持っていないから、幸い(といっていいのかわからないが)まだ気付いていない。
しかしそれは、トランクスが教えてやらなければいけないということでもある。
気が重かった。
パンに肩を叩かれて、トランクスは我に帰った。
「何ボーっとしてるの?」
「い、いや、ヤムチャさんの気を探ってたんだよ」
トランクスは咄嗟にごまかした。しかしこのごまかし方は、あまり得策とはいえない。
「で、どう? 何か見つかった?」
――こう聞かれるからだ。
50分前に一度見つけている。そしてその時に、悟飯が死んだ。 できればこの話題を続けるのは避けたかった。
「いや。……この辺りにはいないのかもしれないな。都へ行って聞き込みでもしてみようか」
「その前に、一つ聞いていい?」
「ああ、なに?」
「あそこの木」
といってパンは葉の生い茂った細身の木を指差した。
「なんであんなに傾いてるの?」
木は、ちょうどトランクスたちの逆側へ向けて、奇妙なほど反り返っていた。
明らかに普通ではない。何かが潜んでいるのだ。
トランクスはパンを突き飛ばした。その一瞬後、木からバネのように跳ね飛ばされ、 ヤムチャが猛スピードで突っ込んできた。
トランクスは計算する。
受け止めるのは無理だ。もう超サイヤ人になる暇がない(なっても無理かもしれない)。 避けるか? あたりは岩場だ。障害物が多すぎて飛びのくことは出来ない。
ならば。トランクスは小さく飛び上がると、ヤムチャの横っ面を右足で思い切り蹴り飛ばした。 ヤムチャの軌道が45度ほど修正され、岩場に激突する。
「いたた……。ひどいことしやがるな、トランクス」
トランクスは気を開放した。超サイヤ人となり、追い討ちをかけようとする。
しかし踏み切る右の足がグラついて、攻撃が遅れた。足を痛めてしまったらしい。 その間にヤムチャは体勢を立て直す。
「充分な気の力なしで、突っ込んでくるオレを蹴り飛ばしたんだ……。そうなって当然。 裸足で自動車を思い切り蹴とばすようなものだからな」
ヤムチャは立ち上がり、トランクスを見下ろした。
本気ではない。界王拳すら、おそらく使ってはいない。 それなのに凄まじい威圧感を感じる。
せいぜい悟天より少し強い程度の自分とは、相当な力の差があるようだ。
おまけに足の感覚が戻らない。
トランクスは冷や汗を右手で拭うと、静かに口を開いた。
「……負けるわけには行かない。悟飯さんのカタキは取らせてもらう」
「あ、バカ! 言うな!」
ヤムチャが言った。トランクスも気付いて、慌ててパンの方を振り返る。
パンは眼を丸くして、トランクスに向かって何か聞きたそうに口を開いた。
しかし、トランクスにパンの言葉は届かなかった。 振り返ってヤムチャから目を離した瞬間、後頭部に膝蹴りを喰らったのだ。
「……二重にバカだ、お前は」
トランクスは何とか立ち上がったが、足のダメージもあって歩く事すらままならなかった。
トランクスは計算する。
もはや、まともに戦うのは無理だ。もともと力に格差があるところに持ってきて、条件が悪すぎる。
勝算がある戦い方は、―― 一つしかない。
だが、それも、この足のダメージでは難しかった。一旦ヤムチャを捕らえなければならないのだ。
トランクスがあきらめようとした時、甲高い雄たけびがあたりに響いた。
パンだった。父親の仇であるヤムチャに向けて、気をいっぱいに使ったエネルギー波を放つ。
サイヤ人と地球人の混血の力か、そのエネルギー波の威力はトランクスのものに勝るとも劣らなかった。
もっともトランクスがこれを放ったなら、ヤムチャも軽くあしらえただろう。 しかしヤムチャはトランクスに意識を集中していた。そのせいで、最初の反応が遅れた。 ヤムチャは焦りの表情を浮かべたが、何とか両手を使ってエネルギー波を吸収することに成功した。
が、今度はその作業に意識を集中しすぎ、トランクスから注意がそれた。
その隙にトランクスは左足を使って跳躍し、ヤムチャを後ろから羽交い絞めにした。
「なんとか捕まえたぞ、ヤムチャ……。もうお前は手も足も出ない」
「確かに、見事につかまっちまったようだな。……で、ここからどうする? パンにもう一発撃ってもらうってのは、無理みたいだぜ」
ヤムチャが顎で指し示した。パンは完全に力を使いきり、気絶している。
トランクスは小さく深呼吸すると、はっきりとした口調で質問に答えた。
「……自爆する!」
「じ、自爆、だと?」
ヤムチャが驚いた口調になった。
「ああ、あんたとともに死んでやる」
「ま、待てよトランクス。オレもそうだが、お前だって自爆の経験なんかないだろ? 万が一失敗して、単なる爆発波にでもなったら――」
「かつて父さんがやってみせたことだ。……オレを庇うために。絶対に、失敗はしない!」
話し合いながらも、二人は舞空術でゆっくりと上昇していた。
南の都が見える高度まできたのに気付き、ヤムチャが言った。
「本気、みたいだな……。上空まできたのは、パンを爆発に巻き込まないためだろ? ハッタリじゃあ、ないんだな」
「……いくぞ、ヤムチャ」
トランクスは溜めていた気をすべて、限界を超えて放出した。
まず閃光が、続いて轟音があたりを包み、最後に爆煙が空高く巻き起こる。
風が煙をゆっくりと吹流し、トランクスが地面へと落下した。 かつてのベジータのように、その身体は灰となっていた。
ヤムチャは、それを上空から見守っていた。
「危なかった。見事な覚悟だったぜ、トランクス。オレは確かに手も足も出なかった……。四妖拳を使わなければな」
ヤムチャはゆっくりと飛び去ろうとした。が、すぐに空中で停止した。
目の前にベジータが立ち塞がっていたからだ。
「久しぶりだな、ヤムチャ。と言っても、前に会ったときからそんなに日にちは経っていないが……、ずいぶん戦闘力を上げたじゃないか」
ベジータは落ち着いた口調でいった。
「あ、ああ……、お陰さまでな」
「この俺が叩きのめすのにふさわしいパワーだ……。勝負しようぜ」
「それは望むところだが……。ずいぶん冷静だな。オレのこと怒ってないのか?」
「トランクスのことなら、あいつはまっとうに勝負してお前に負けた。前のブラの件も、オレが冷静さを欠いていただけの話だ……。
だが!」
ベジータの髪が金色に変化した。
「怒っていないなどと勘違いしてくれるなよ? 貴様は殺す! チリ一つ残らず消滅させてやるぞ!」
「そうそう、その反応の方がお前らしい……。だが、」
ヤムチャは素早く亀仙流の構えを取ると、一瞬で距離をつめベジータに肘から体当たりした。
「殺すってのは無理があるな。お前はオレより弱い」
ベジータは即座に反撃した。
右足での回し蹴り。ヤムチャには軽く避けられてしまう。
しかしこれは見せ技。防御される事はわかっている。 ベジータはそのまま身体を空中でひねり、全体重をかけて左で後ろ回し蹴りを放った。
ヤムチャは左腕でガードする。防御は硬く、押し切れない。
ベジータは一旦左足を引き下げヤムチャに背を向けると、素早く宙返りしてヤムチャの脳天に右足を振り下ろした。
ヤムチャは地上へと真っ逆さまに落下していったが、苦もなく着地する。
ベジータはチッと舌打ちをすると、ヤムチャの近くに降り立った。
ヤムチャは軽く指の骨を鳴らすと、余裕たっぷりな口調で言った。
「今度はこっちの番だ。地上戦ならこいつが使える……、新狼牙風風拳!」
ヤムチャの猛攻が始まった。
一撃で大ダメージを受けるほどの力の差はない。
しかし、速い。防御が追いつかない。
ベジータはじりじりと少しずつ、確実に体力を削られていった。
何十発目かのパンチを喰らい、ベジータは吹っ飛ばされ大岩に激突した。 ヤムチャはこれをチャンスと見て、素早く右手に気を溜めると特大のエネルギー弾を放った。
エネルギー弾はまっすぐに、かなりのスピードでベジータに向かう。
しかしベジータは不敵に笑った。
「こいつを待っていた……! 貴様がオレにとどめを刺そうとする瞬間をな! まったくイライラさせられたぜ……。うおおおおお!!」
ベジータは両手の拳を組み合わせると、気でその拳を包み込み、思い切りエネルギー弾に向かって振り下ろした。
エネルギー弾はベジータに跳ね返された格好となり、一直線にヤムチャへと向かって行く。
「オレは知っているぞ! 貴様は自分自身の気は吸収できんのだ! 自分の技で消し飛ぶが良い、ヤムチャ!」
しかしヤムチャはエネルギー弾を避けようとも防御しようともせず、 右手中指と人差し指をぐるぐると回すような動作をした。
そしてエネルギー弾は、そのヤムチャの指の動きにあわせるように、ぐるぐると空中を旋回し、 やがてヤムチャの傍らで静止した。
「な、なんだと……! エネルギー弾を操った……?」
「お前は敵となったオレの特徴はよく把握していたようだが、そうなる以前の無害な人間だったオレについては予習を怠っていたようだな。割と近所に住んでいたのに、眼中になかったってことか……。少し寂しいぜ。このエネルギー弾は操気弾といって、オレの意思で自由に操る事が出来る」
ヤムチャはそういうと、勢いよく指でベジータを指し示した。 操気弾はその命令に従い、再びベジータへと向かって行く。
ベジータはそれから何度も操気弾を弾き返したが、操気弾はヤムチャに届く前に再び操られ、 それを繰り返すうちに段々体力が落ちていき、ついに跳ね返しきれずにダメージを負った。
「そろそろ最期の時が近づいてきたようだな」
ヤムチャがベジータに歩み寄る。
ベジータは残った全力を込めて右ストレートを放ったが、ヤムチャには軽く受け止められてしまう。
続いて左ストレートを放とうとするが、今度はヤムチャに足払いをかけられてすっ転んでしまった。
「足元がお留守だぜ、ベジータ」
ヤムチャは余裕を見せて言った。
「ク……ククク……。なんて無様なんだ……。 このオレが、サイヤ人の王子ベジータが、地球人ごときに子ども扱いとは……。 おまけに、たかがナメック星人の忠告を参考にして――」
ベジータは気を練り上げた。 もう超サイヤ人2を維持するのも限界が近く、ほとんど気は集まらなかったが、目的には充分足りる。
「逃げることになるとはな!」
ベジータは全身から気を噴出した。
爆発波。威力はない。ヤムチャにダメージを与える事は期待出来ない。
だが、目くらましは充分出来ているはずだった。
「首を洗って待っているがいい、ヤムチャ! アタマに来ることだが、オレはカカロットに協力を求めに行く! 超サイヤ人ゴジータが、貴様を倒すのだ!」
ベジータはそういうと、素早く入り組んだ岩場の中へと潜り込んで気を消した。 ここでヤムチャをやり過ごし、そのあとで悟空の元へ向かい、……フュージョンするつもりだった。
「ベジータ……。まさかお前が、悟空に助けを求めに行くとはな。しかも、フュージョンする、だと。人は変われば変わるもんだ……。このオレのように。だが、逃がすわけには行かない」
ヤムチャは特大の操気弾を作り出すと、自分から500mほどはなれた位置に静止させた。
そして、指をぐるぐると回し始めた。操気弾も当然回る。岩を削り、木々をなぎ倒して。 操気弾はそのまま、すこしずつ回転する半径を小さくしていった。
ベジータは操気弾が一周するたびに追い詰められ、ヤムチャのいる円の中心へと近寄らされて行く。
「どうだ! このまま操気弾に巻き込まれるか、避けてオレに見つかるか、二つに一つだ!」
ベジータはチッと舌打ちをすると、最後の気を振り絞って超サイヤ人2へと変化した。
「答えはもう一つある! 貴様を、殺してやる!」
そしてヤムチャへと飛び掛っていったが、寸前でヤムチャの拳を胸に受け、そのまま地面に突っ伏した。
「ヤ、ヤムチャ……。アタマに来るが認めてやる。貴様は、オレより強い……。だが、カカロットには勝てんぞ……。あいつには、超サイヤ人3には……」
「やってみなくっちゃわかるまい」
「わかるんだよ……。なぜならここでこのオレが、貴様にとっておきの嫌がらせという奴をするからだ」
ベジータはそういうと、身体中から力を抜いた。 金色のオーラが止んでいき、彼は超サイヤ人2ではない通常の状態へと戻った。
「な、なに!」
「オレにはわかる……。今の貴様はオレより強いが、カカロットよりはるかに弱い。 超サイヤ人のオレの戦闘力を吸収してカカロットを倒すつもりだったのだろうが、当てが外れたな……。 さあ、オレを殺し、数百万程度の戦闘力を自分のものにするがいい! そしてカカロットに殺されろ。サイヤ人の強さって奴を、思い知るんだな……。ククク……」
ベジータはそういうと気を失った。
ヤムチャは超サイヤ人ではないベジータの気を吸収し、 ほんの僅かの強さと全快近くまでの体力を手に入れた。
そして、一息ついたとき、「ビッ」という風を切るような音がした。
ヤムチャにはその音が何か、すぐにわかった。
「よう、悟空。やっと目が覚めたか。もう戦士はお前しかいない。お前が最後だ……。勝負しようか」
瞬間移動で飛んできた孫悟空は、すぐ近くに倒れているベジータの遺体を一瞥すると、 ヤムチャに向かってゆっくりとうなずいた。
エイジ784年5月29日、午前10時42分。
南の都近辺の岩場。
孫悟空は静かに亀仙流の構えを取った。目の前にはヤムチャが、不敵な表情を浮かべ立ち塞がっている。
「こんなこと言っちゃ、悟飯やベジータに悪いのかもしんねぇけど」
悟空が口を開いた。
「オラ、今すっげえワクワクしてる。 戦士たちはみんなやられちまった……、おめぇが全員倒したんだ。 悟飯も、ベジータも、ブウも、ピッコロも……、全員だ。 こんなの今までどんな奴にだって出来なかったことだ」
「ワクワク、だって? お前が、オレ相手にか? ……そうか。オレもそこまでになれたのか。 この戦いはやはり無駄ではなかった」
ヤムチャは少し遠くを見るような表情になった。
「なに全部終わっちまったみたいな言い方してんだよ? 言っとくけどオラは、そう簡単にはやられねぇつもりだぞ」
その言葉に、ヤムチャは遠くを見る目つきを止め、悟空にまっすぐ視線を向けた。
「終わったのさ」
「なに?」
「"悟空以外の全員を倒すこと"……。これがこの戦いの目標だった。もうオレの戦いは終わっている」
「何言ってんだよ? まだオラが――」
「悟空、お前はオレのヒーローだった」
ヤムチャが突然口調を変えた。悟空が不審げな表情でヤムチャを見る。
「オレだけじゃない。クリリンも、ブルマも、あのベジータでさえそう思ってたはずだぜ。お前は強かった。もっとも、ただ強いだけなら悟飯の方が上だ。お前には強さ以外のなにかがあった」
ヤムチャの話は続く。
「お前はどんなに強い奴に、どんなに追い詰められても最後には必ず勝利してくれた。 悟飯やベジータはどんなに強くても、それ以上に強い奴相手にはやられてしまう。だがお前は自分より強い奴も倒すことが出来た……。お前は運命に味方されている。お前は、カリスマなんだ」
「ほ、褒めてくれるのは嬉しいけどさ。オラには話が見えねぇ」
「まあ、待てよ。 オレはドラゴンボールを捜しながら、この戦いの計画を立てていた。 ベジータや悟飯に対する作戦なら割とすぐに立てられた。 だが、その時気付いたんだ。 オレがどんなに強くなっても、どんなにすげぇ技を身につけても、 お前には勝てる気はしない――てさ。
だからオレは決めた。 お前は最後に残して、絶対確実に、 卑怯といわれようとも100%勝てる手段で倒すことにしようってな」
ヤムチャはそういうと、突然悟空に向けて自分の両手をかざした。
悟空はヤムチャの手のひらの突起を見た。 と、同時に強烈な腹痛に襲われ、悟空は亀仙流の構えを解いてうずくまった。
「こ、これは覚えがある……。チャオズの、超能力」
「そう。隙だらけになってしまう技だが、他に一人も戦士がいない状況では利用できる」
「へ、へへ……。でも、オラ知ってっぞ……。 超能力を使ってる最中は両手が完全にふさがっちまう。 攻撃が蹴りだけなら、オラ、耐えて見せる」
「ところがそうはいかないんだな……。 お前は今、オレの両手に注目している。 超能力を使った理由その2、だ」
ヤムチャは両手を怪しく上下に動かした。
悟空は思わずその動きを目で追う。いや、視線が吸い寄せられる。
悟空とヤムチャの、目と目が合った。
そして次の瞬間には悟空は眠りに落ちていた。
「よいこ眠眠拳……。武天老師様の技だ。 悟空、お前の唯一の弱点を教えてやろうか? お前は素直で真面目すぎる。 フェイントや術の類にかかりやすすぎるんだ……。
さて、悟空。催眠術でお前に命令する。超サイヤ人3になれ!」
意識を失った悟空の身体から、金色の気が噴き出して来た。
ヤムチャは悟空の身体に手を触れる。 これまでにないほど大量の気が、ヤムチャの身体に流れ込んで行く。
吸収は終わった。
ヤムチャはゆっくりと気を解放する。
それでも大地は揺れ、圧力で雲が吹っ飛び、あたりは嵐のような突風に包まれる。
「これが、超サイヤ人3の力……。そして、これが!」
ヤムチャの身体を赤いオーラが包んだ。
「界王拳20倍!」
その瞬間、あたりの空気がすべて吹き飛んだ。
音もなく、風もない。ヤムチャは完全な静けさを感じた。
空気が再び周りに集まって来る。
ヤムチャは一つ深呼吸をすると、高らかに叫んだ。
「このパワー! この圧倒的なエネルギー! オレはついにこれを手にした。
プーアル! 武天老師様! 見てくれ! 俺は天下を取ったんだ!」
その時、ヤムチャの身体を何かが貫いた。
血が噴き出し、身体から力が抜け、ヤムチャは地面に突っ伏した。
「気円斬。たしかオレの義理の兄が得意としてた技だったか。ガラじゃないが、仇討ちってことになるのかな……」
ヤムチャの足元、操気弾によって崩れた岩場の影から、17号がゆっくり歩み出て来た。
「じゅ、17号……。そうか、調子に乗ってお前の存在を忘れていた……。失敗だったな……」
「狙ったわけじゃないが、首の血管と神経が切れている……。もう身体が麻痺して動かないだろう? そして数分で命も尽きる」
「あ、ああ……。オレの負けだ。だけど何でこの場所が分かったんだ? お前には気を感じる能力はないはず。だからオレの計画からは無視されていたわけだからな」
「こいつだ」
17号は、ジャンパーのポケットから色つきの片メガネのような物を取り出した。
「ス、スカウター……!」
ヤムチャが驚いた口調でいい、喉を詰まらせて何度か咳をした。
「ああ。カプセルコーポレーションの女社長から呼び出しを受けてな。こいつを渡されたってわけだ」
「そ、そうか……。気付いておくべきだった……。 何故、ヤジロベーにオレの居場所がわかったのか……。 何故、ブルマがわざわざブラに天界への届け物を担当させていたのか……。 考えれば、わかることだったのに」
「……まあ、てめえはよくやったさ。 たった一人で、ソン・ゴクウもベジータもピッコロみたいな奴も倒したわけだからな。 これ以上を望むのは贅沢って奴だ……。
じゃあ、あばよ」
17号がヤムチャを狙ってエネルギー波を放とうとした瞬間、 スカウターが甲高い「ピーピー」という音を立て始めた。
「警戒信号? どういうことだ。ヤムチャ以外に、このオレが警戒しなければならないほどの強さを持つ者がいるわけないのに……」
17号はスカウターを手にとった。
「ば、馬鹿な! 何だこの数値は! こ、故障したのか……?」
17号がスカウターを覗き込んで声をあげた。
「どうか、したのか……?」
ヤムチャが質問する。
「ソン・ゴクウの気だ……! ベジータもいる。ピッコロも、クリリンも、天津飯も復活している……! ど、どういうことだ?」
「ナメック星のドラゴンボールだ」
ヤムチャが説明した。
「悟空が……、死んで、天国へ行った。 そしてそこから、界王様か界王神様のところへ瞬間移動したんだ。 あのふたりのどっちかが協力すれば、悟空はナメック星人たちと連絡が取れる。 そしてポルンガを呼び出して、地球でオレに殺された連中を生き返らせた……」
「な、何だと! そんな方法があったのか! しかしそれでは……」
17号はヤムチャのほうに向き直った。
「それでは地球を滅ぼすことなど不可能じゃないか! 何度戦士達を全滅させても、そのナメック星のドラゴンボールとやらを使われたらまた最初から、だ。 オレたち姉弟を使ったゲロの奴の復讐も、セルやバビディの野望も、フリーザって野郎の地球侵略も、すべては最初から不可能なことだったのか!」
17号はやりきれないような顔をした。
自分たち姉弟の運命を大きく変えてしまったゲロの行動は、最初から全く無駄なことだったのだ。
「そうだ。オレの場合は相手を倒す度に強くなれるが、それでもいつか――それこそ魔封波なり、宇宙に放り出されるなりで、 やられちまうだろうな。 オレが悟空を最後に倒すことにこだわったのは、 そうしなきゃ天下を取るのが不可能だからでもあるんだ……」
「てめえはそれを知っていたのか?」
17号は強い口調でヤムチャに迫る。
「てめえは本当にそれでいいのか?
かつてゲロの資料で読んだ……。 格闘家・ヤムチャはピッコロ大魔王とその息子による世界支配の阻止、 ベジータ・ナッパによるドラゴンボールをかけた戦いでそれぞれ微力ながらも力を尽くし、 平和な時代にはその体力を生かしてスポーツや人助けをするなど、 他の戦士達に比べても地球への貢献度は高かった、とな。 そのまま行けば、かつての盗賊稼業のことを差し引いても充分天国へ行けたはずだ。 てめえはどうせ一瞬しか持たない天下を取るために、天国での暮らしを捨てちまったんだ!」
「17号……。 オ、オレは、お前の言うとおり、他の奴らに比べても、 ……なんていうか、そうだな、平和的な暮らしをしていたし、望んでもいた。 格闘家に、なりきれていなかった……。 他のみんなとオレとの違いは何かっていうと、オレは考えたんだが、野心、だったんだと思う」
17号は黙って聞いていた。
「他のみんなは……。 悟空も、ベジータも、ピッコロも、天津飯も、たぶんクリリンだって、考えは一緒だった。 "誰よりも強くありたい"って、そう思っているだけだった。
だから、強くなった。 オレは違った。オレは最初から天下になんか興味はなかった。 だから弱いままだったんだ……。 この戦いを始めて、ただ天下を取るためだけにガムシャラに力を振るってみたら、オレはこんなにも強くなれた。
みんなの敵になったことで、みんなの、……格闘家の、仲間入りが出来たんだ」
「ヤムチャ……」
17号は静かに口を開いた。
「やはりオレには理解できない。 てめえはそれで……、虚しく、ならないのか?」
「む、虚しい……、だって? そうか、……これが、虚しさってやつなのか。オ、オレにも、これを感じることができたわけか……」
「なんだ? 何を言っている? おい、ヤムチャ!」
17号はヤムチャを二三度揺さぶったが、すぐに手を離した。
エイジ784年5月29日、午前11時00分。
ヤムチャは、ついに息絶えた。
17号はヤムチャの亡骸を、いつまでも見つめていた。
しばらくして、東の方からスカイカーに乗ってヤジロベーが現れた。手にはスカウターを持っている。
「やいやいやい! ヤムチャ!
なんだか知らないがお前、今ずいぶん弱っているな! とどめはこのヤジロベー様が刺してやる! 覚悟するんだな!」
そして西の方から飛空挺に乗ってサタンが現れた。手にはスカウターを持っている。
「オラオラオラ! ヤムチャ!
戦闘力10のお前なんかこの私がギッタンギッタンのメタメタにぶちのめしてやるぞ! ブウのカタキだ! だーはっはっは!」
二人は顔を見合わせた。